横浜市議会議員 公明党所属 仁田まさとし
シャープな感性、ホットな心 仁田まさとしの議員活動をご報告します。
Top > コラム > 「『輿論の世論化』をただす」から 政策立案への示唆

■ 「『輿論の世論化』をただす」から 政策立案への示唆

 世論調査は、私たち政治の世界ではとても重要な指標として用いられており、近年、その精度も高まっているように感じます。一方で、直感的、心情的要素が含まれる結果が意味するものを、用いる側が、もっと斟酌すべきと思うこともしばしばです。
 過日、ある新聞紙上に、京都大学大学院准教授の佐藤卓己氏のとても示唆に富む寄稿が掲載されていました。「『輿論の世論化』をただす」とのタイトルで、戦前まで意味が違った「よろん」と「せろん」を整理し、「輿論」の再興を求めているものです。
佐藤卓己氏によると、「よろん(輿論)とせろん(世論)は戦前まで別の言葉であった。
明治維新のスローガンだった広義輿論の『よろん』とは、五箇条の御誓文(1868年)の『広く会議を興し、万機公論に決すべし』にも連なる、尊重すべき公論(public opinion)である。一方で、同じく明治天皇が発した軍人勅諭(1882年)のなかで『せろん(せいろん)』については『世論に惑わず、政治に拘らず』と書かれている。つまり世論は、暴走を阻止すべき大衆感情(popular sentiments)であった。輿論は『梁書武帝記』(629年)にもある漢語だが、世論は明治日本の新造語である。」ということです。
 しかし、「1925年普通選挙法成立にいたる『政治の大衆化』の中で、理性的な討議より情緒的共感を重視する風潮が生まれた。『輿論の世論化』と呼ぶべき現象である。」と。
 さらに、「満州事変以後の戦時体制の中では、実際に理性的輿論は感情的世論の波に飲みこまれていった。」としています。
 そして、「敗戦後の1946年11月16日に告示された当用漢字表で『輿』が制限漢字となったため、毎日新聞社と朝日新聞社は協議して『輿論』を『世論』に置き換える処置を採用し」、輿論調査に代わって「世論調査」の文字が、同年12月9日付けの朝日新聞に登場することになりました。
 結論として、「私(佐藤氏)があえて自覚的に輿論と世論を峻別して使うべきだと訴えるのは、世間の雰囲気(世論)に流されず公的な意見(輿論)を自ら担う主体の自覚が、民主主義に不可欠だと考えるからである。(中略)『輿』とは担ぐものである。世間に漂う気分ではなく個人が担う意見こそが、尊重されなければならない。その意味では輿論と世論の区別を消し去ったことが、公的な意見を担う主体の責任を曖昧にしてしまったのである。」「すでに1981年当用漢字表に代わる常用漢字表の公布によって、法的に漢字『制限』はなくなったはずである。今こそ『輿論』の再興を求めたい。」と主張しています。

 横浜市政において政策を提案し実現に努力する源泉は、あくまで市民の声であり、実現すべきは市民のための制度や事業でなければなりません。そのために、身近で行う語る会や市政報告会、街頭での訴えや公聴などで、「尊重すべき公論」を伺うことを努々忘れてはならないと念じています。